もののけ谷の物の怪達

 半ズボンの素足に、谷を抜けて通る風が気持ち良く感じられる季節になった。(5月に入れば稚児ゆりの群生、モチツツジ、ユキザサをはじめシロバナウンゼンツツジが群れ咲き、眼を楽しませてくれる)と山の案内にあったので、出掛けてみた。

 有馬温泉の背後に連なる
落葉山形山湯槽谷山を有馬三山と呼び、古くから開けた有馬温泉にむ歴史とロマンの伝承が残されている。
 六甲山頂方面へ行く人通りの多い紅葉谷を離れ、湯槽谷へ入った。
20分程で谷を抜け、峠から目的の稚児ゆりが群れる湯槽谷山山頂へ行けるはずだ。
 湯槽谷は主なルートから外れあまり利用されていないようだ、途中山から湧き出た山の水が飲める水飲み場もあるが堰堤の隅の薄暗いところで、とても「美味しい!」といって飲める雰囲気ではない。先に進むにつれて谷は狭まり、晴れているのに光が届かないのか薄暗い、風もこなくなりじっとりとした不快な汗を拭きながら、手元の時計で40分谷を歩いたことを確認した。
 20分程で抜けるはずが、「おかしい!」・・・
先ほどから気になっていた、何かの泣き声のような物音が谷のあちこちから沸きあがっている、イノシシが鼻を鳴らしているような音に聞こえた、イノシシの群れがわれわれを覗いているような
気配、この谷を覆う物の怪達の気配なのか。
 恐怖心も手伝って思いは広がるばかり、冷静に頭を整理しなければ、この場はカエルが鳴いていると考えたほうが常識的だ、しかし、染み出した水が岩を濡らす程度の谷筋にカエルが住めるのか、カエルの隠れる場所がない、木の葉の下に隠れているのか、谷全体から聞こえるのはどう理解すればいいのか・・・
 そのとき、あちこちから聞こえてくる鳴き声の中から、はっきりと足元から聞こえてくる鳴き声があった、木の葉の下かもしれないがそれを確かめなくても、すでに物の怪の呪縛が解けはじめたのがわかった。
 先を急いだ、さらに薄暗くなるく先を見つめながら。
いまは、物の怪の
気配は消えていた。
もののけ谷の物の怪達 1999.05.17 池田秀信

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