撮影を早く終えて、この場を一刻も早く立ち去ろうと思っていた。
登山口からものの30分ほどのところだが、深く切れ込んだ谷である。
姿勢を低くしてカメラを構えている場所は片側が切り立った山肌、もう片側が崖になっている。

其処は両手を拡げた程の岩場のテラスになっている。
テラスの先は体を支えるものはなく、新芽をつけたコシアブラのか細い枝先が見えていた。

レンズの先の谷を挟んで直立した岩壁に、日陰ツツジが群生して咲いている。岩肌にこびり付き、ある種の形状を成していた。
それは見るものを圧倒させる見事な眺めであっる。
時折、春の雨が光を和らげた。


岩肌を這う日陰ツツジ

フィルムのコマ数を撮り終えた。
滝を流れ落ちる水音が谷を響かせていた。
早く立ち去ろうとする気持ちとは逆に、その場の少し奥まったところで、腰を落としお昼のおにぎりを食べていた。
雄大な景色を目の前にしながら過ごす時間の、なんと言えばいいのか、顔が自然とほころんでいた。


山桜と日陰ツツジ

2000.04.24  
岩場のテラスにて『筱見(ささみ)四十八滝』

                 池田秀信

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